私が選んだ職場【RONTA（ロンタ）】

事務職員として長年働いてきた畑山さんは娘さんとの何気ない会話がきっかけで福祉施設の調理場スタッフに転身。調理の技術を磨き、ますます料理好きになっていく中、カフェの厨房という新たな職場に身を投じることを選びます。

小学生時代の畑山さんは、新聞で料理のレシピを見つけるとすぐにスクラップするほどの料理好きだったそうです。社会人になってからは料理と無関係の業界で事務職に就いていましたが、家庭では趣味の一つとして料理を楽しんでいました。「飲食業への憧れはありましたけど、子育て中でしたので、勤め先は業務内容よりも夕方に帰宅できて週末に休めることが重要でした」。
子育ても一段落ついたある日「大好きな料理の仕事をやってみたら？」と成長した娘さんからの言葉に背中を押され、長年勤めた会社を退職。知人に紹介されたサービス付き高齢者向け住宅で料理補助としてスタートします。未経験者でありながら、元板前だった上司に、包丁の握り方から料理の基本を教わることができ、これまで経験してきた職種とは異なる充実感を味わう日々を送り始めました。

福祉施設の調理場で働きだしてから数年後、畑山さんのもとに、新しくオープンしたカフェで料理の腕を振るってみないかと誘いがありました。「実はこのころ、勤務時間などの変更があり、徐々に対応が難しくなっていました。今後の働き方を考えていたタイミングだったこともあり、次のステップに踏み出すことを決めたんです」。
新天地は不特定多数の人が利用する交流センターの一画に設けられたカフェ。決まった時間に、決められた人数の料理を複数のスタッフで分担して作ってきたこれまでの職場とは異なり、厨房内には自分一人。オーダーを受けてから料理を作るというスタイルに戸惑いを覚えたと言います。「中には食事にあまり時間をかけられないお客様も多くいらっしゃいます。お待たせしないためにはどうすればいいか、作業の効率を上げる方法を模索しましたね」。そこでまず取り組んだのが、厨房内での動線の見直しでした。料理に必要な器具や調味料は一歩動くだけで手が届く範囲に集め、無駄な動きを省くことで時短に成功。
一度にまとめて料理を作ったり、ゆでるのに時間を要する麺類は、下ごしらえを工夫するなどして、調理をスピードアップしました。注文を受けた後には「少々お待ちください」と笑顔で一言添えるのも忘れてはいけない重要なポイントだと言います。

働き始めて早5カ月。反応をダイレクトに確認できる点が現職場の醍醐味だという畑山さんは、今後もやさしい味付けを基本に、お客様のリクエストに応じたメニューを提供していきたいと意欲を見せます。「好きな食べ物やどんな物が食べたいか、会話を楽しみながら聞いているんです」。会話で得た情報を参考に料理を試作、時には味見をしてもらい何度も改良。先月デザートが新メニューとして加わりました。
こうして毎日職場で楽しい時間を過ごす一方、料理を作るのは一人しかいないため、健康管理には特に気を付けているそう。「少しでも体調が悪いとちゃんとした料理を提供できません。早寝早起きを基本に、休日には趣味の魚釣りでリフレッシュして気持ちを切り替えているんですよ」。
そんな畑山さんの当面の目標は、自分で釣り上げたサケの卵を使い、自家製のイクラ丼をメニューに加えること。笑顔で喜ぶお客様を思い浮かべながら、夢はどんどん膨らみます。